組織培養技術の進歩に伴い,細胞固有物質や組織自体を生産する試みがなされている.動・植物の培養組織は3次元構造を維持することにより,より高度な機能を発現し,培養を含む生産プロセスを構築するにあたり,これまでの細胞懸濁系での均一相反応とは異なった問題点を数多く抱えている.生物化学工学的観点から,時空間的に変動する不均一相系生物反応としてこの問題を捉え,ヒト組織を利用した生産プロセスに対する実践的研究を行っている.ゲノムからフィジオームまで,細胞内での階層レベルの異なる発現・生成現象を解明する研究領域の知識を基に,単細胞(マイクロスケール),細胞集塊(メソスケール),組織(マクロスケール),臓器(メガスケール)のマルチスケールにおける生体応答解析に基づく生体形成の解明を行う.当面は,細胞間コミュニケーションを有する最小単位である細胞集塊(メソスケール)にて細胞間シグナリングを解析することで,独立した細胞の集団から相互コミュニケーションを有する集塊へと変化する発生的機能現象の把握を試み,マクロスケールである組織の形成機構解明を行う.また,応用的展開については,生物化学工学の立場から,従来の医薬品製造プロセスとは異なった再生医療製品の生産プロセス培養を中心とする工程管理および細胞・組織製品の品質管理の手法確立を行うとともに創薬スクリーニング技術への展開も図る.
BPSEは 細胞挙動特性制御 とそれに基づく培養プロセスの開発に取り組んできた.特に,種々の分化細胞,間葉系幹細胞,人工多能性幹細胞 の培養について多くの実績を有し,細胞挙動制御に基づいた組織再構築のため培養方法の確立,および生産プロセスの開発などの研究に従事した.また,発生・培養工学プラットフォームの構築を目指し,メカノトランスダクション,細胞品質の安定化技術,細胞集塊安定化技術,組織・臓器形成技術の開発を行ってきた.これまでの研究成果に基づいて,細胞・組織などの反応場を提供する空間を対象とし,発生生物学の知識と培養工学のセンスの融合を目指し,新規な培養プロセス開発のための設計図を提案してきた.「ワディントン地形」の概念に基ついて,目的の構造や機能を有する細胞組織体の構築を可能とするツールを見つけ出すことによって,均質性・大容量・低コスト・汎用性といった目標を種々のキーワ ードを掲げて実現し,基礎研究段階から細胞にあわせた培養プロセスの開発をしてきた.本研究の要素技術では,細胞挙動の操作による分化方向性の制御を行う技術,培養環境を操る技術,微小培養場を再操作する技術,得られた多次元情報からの重要要素の抽出,解析を行う技術の 4 つの開発からなる.本研究で提案する要素技術は,「分化誘導に係わる工程および品質管理技術」や「安定的に大量供給可能な製造技術」に貢献できると考えられる.
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