Web Open Campus

旧工学研究科ホームページに掲載されていたWeb Open Campus のうち生物工学専攻(旧生命先端工学専攻)を抜粋したコンテンツを掲載しております。

「動物細胞を使った抗体医薬品の生産技術開発を体験しよう!」

ようこそ大政研究室へ。抗体医薬に代表される複雑な構造を持つバイオ医薬品は、一般的な低分子化合物の薬のように化学合成により生産することは難しく、実はその「生産工場」として細胞が用いられているのです。当研究室では、動物細胞を用いた物質生産に関する研究を行っており、今日はその一端を体験していただきます。細胞にバイオ医薬品のような物質を作ってもらうためには、細胞内の代謝システムを理解することがとても大切です。ここに広げているのは、たった1つの細胞の代謝システム、つまり連鎖的な化学反応を記したものです。これらの反応を起こす酵素やその設計図となる遺伝子を理解することも重要です。

たくさんの物質をつくるには、細胞がたくさんあった方がいいですよね。動物細胞はバイオリアクターと呼ばれる装置を用いて培養することができます。バイオリアクターで培養液中の酸素濃度やpHをコントロールすることにより、細胞をより高密度に培養することが可能になります。ここにあるのは2リットルの培養タンク(培養液量は1リットル)ですが、実際のバイオ医薬品生産では、大きいもので20,000リットルの巨大なタンクを使っているんですよ。

では、動物細胞がどのように目的のタンパク質をつくってくれるのか。その過程を観察してみましょう。今回は、抗体医薬となる組換えタンパク質を実際に生産する動物細胞を用いて、一定の時間毎に写真を連続撮影するタイムラプスイメージングを行います。まずは蛍光顕微鏡に細胞の培養皿をセットします。これは培養皿に細胞を接着させて培養させたものです。撮影する位置や撮影方法(当てる光の波長や露光時間など)を設定することにより、特定の細胞を時間を追って観察することができるんですよ。

タイムラプス動画を撮影する場合に気をつけなければならないのは、細胞の培養環境が普段と変わらないように、温度や二酸化炭素の濃度を一定に制御することです。このことにより、長時間に渡り、一定の環境下における細胞の状態を追うことが可能となります。細胞は非常に繊細です。少しでも環境に変化があると細胞の代謝にも変化が生じ、その観察記録も使えなくなります。培養環境の設定や現在の状態確認は、このモニター付きの装置を通して行えるようになっています。

さあ、撮影した画像を見てください。なかなかカラフルでしょう。でもこれは実際の細胞の色ではありません。今回、観察をした細胞は、観察がしやすいように緑色の蛍光物質と融合させたタンパク質を発現(生産)するようにしてあります。また、生きたまま染められる脂質系の色素を用いて、タンパク質の糖鎖修飾等を行う細胞内小器官であるゴルジ体を赤色の蛍光色素で染色しています。細胞の核は、二本鎖DNAと結合する青色の蛍光色素で標識されています。このような解析を行うことで、目的のタンパク質がどこでどのように発現するのかを経時的変化とともに知ることができます。

どうすれば安定して効率的に細胞を培養して増やせるのかも重要な研究テーマです。細胞分裂の経過も詳細に解明しなければなりません。これは細胞分裂期に現れる染色体を3次元画像で構築したものです。細胞には厚みがあるので、顕微鏡でz軸(奥行きを表わす軸)方向に焦点を移動させながら写真を連続して撮ることで、立体画像を構築することができます。細胞のz軸の情報を得ながら経時的変化を追うと、時間も含めた4次元のデータを得ることも可能です。

当研究室では、様々な研究テーマの一つとして、細胞の染色体に着目した研究を行っています。染色体の数や大きさによる類型を核型といいます。ここでは細胞の核型解析の一部を体験してもらいましょう。ここにある最新の顕微鏡はただ覗いて観察するだけでなく、とても優れた機能を持っているんですよ。染色体標本をセットして指示すると、観察する染色体像を自動的にサーチして、候補をピックアップしてくれるんです。こうした最新の機器により以前は難しくて職人技が必要だった研究が比較的簡単にできるようになっているんです。

自動で認識された染色体像の一覧が表示されました。これらの候補の中から、重なりのないきれいな染色体像を選択してみましょう。選択した染色体像は、さらに高い倍率のレンズを使って、指定した蛍光の組み合わせで写真を撮っていきます。設定だけを行うと、位置情報に基づいて、全て自動で撮影されます。

今回は、染色体特異的プローブを用いて染色を行った標本について、写真撮影と解析を行いました。染色体特異的プローブは、5色の蛍光色素の組み合わせでラベルされており、一度のハイブリダイゼーション(核酸の性質に基づいて、互いに相補的な塩基対を結合させる)で染色体番号別に染色体を染め分けることができます。右側の像は、5色の蛍光色素の一つであるアクアで標識された部分、左側の像は、蛍光の組み合わせによって判明した染色体番号を擬似カラーで表示させたものになります。専用のソフトウェアを用いることで、これらの操作を簡単に行うことができます。

私たちは抗体医薬の生産に多用される工業用動物細胞であるチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を研究対象として用いています。実はこの細胞、まだまだわかっていないことも多く、より優れた「生産工場」にするにはさらなる研究が必要なんです。この画像は、先ほど撮った写真を染色体番号順に並べ替えたものです。擬似カラーで表示させて並べ替えることにより、転座などの染色体変異が一目で分かるようになりました。このように、動物細胞を用いたモノづくりに関する研究には、現在の最先端技術が導入され、次々に新しい発見や発明がされているのです。


生命先端工学専攻(現生物工学専攻) 大政 健史 教授

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