講演者プロフィール

 

株式会社 ジャパン・ティッシュエンジニアリング

取締役 研究開発部長 畠 賢一郎

 

<略歴>

1991年 広島大学歯学部卒業

1995年 名古屋大学大学院医学研究科博士課程修了

1996年 名城病院(名古屋市)歯科口腔外科勤務

1997年 名古屋大学大学院医学研究科助手

2000年 名古屋大学医学部組織工学寄付講座助教授

2002年 名古屋大学医学部附属病院 遺伝子再生医療センター助教授

2004年 もり歯科医院(愛知県扶桑町)

2004 年 現職

 

 

 

<プロフィール>

愛知県刈谷市在住 1964年生

■研究テーマ

培養口腔粘膜細胞を用いた口腔粘膜の基礎的・臨床的研究

下顎骨延長術の臨床的研究

再生医療研究全般

 皮膚、軟骨、角膜、末梢神経、心臓弁、骨 など

■所属学会・協会等

生物工学会、日本再生医療学会、日本組織工学会、Tissue Engineering and Regenerative Medicine International

Society (TERMIS)、日本歯周病学会、日本再生歯科医学会 等

■資格・所属等

歯科医師

 

<著書・論文等>

     主な論文

     Differential regulation by IL-1beta and EGF of expression of three different hyaluronan

synthases in oral mucosal epithelial cells and fibroblasts and dermal fibroblasts: quantitative

analysis using real-time RT-PCR. J Invest Dermatol. Mar;122(3):631-9,2004

     Ultrasound enhances transforming growth factor beta-mediated chondrocyte differentiation

of human mesenchymal stem cells.Tissue Eng. May-Jun;10(5-6):921-9,2004

     A novel approach to regenerating periodontal tissue by grafting autologous cultured periosteum.

Tissue Eng. May;12(5):1227-335, 2006

     Tissue-Engineered Cultured periosteum Used with Platelet-rich Plasma and Hydroxyapatite

in Treating Human Osseous Defects. J Periodontol. May; 79(5): 811-18, 2008

■書籍

・ 延長器具と手術準備 顎骨延長術の臨床応用 クインテッセンス出版:95-99 1999

     ティッシュ・エンジニアリング研究の発展 培養皮膚バンク ティッシュ・エンジニアリング

組織工学の基礎と応用 名古屋大学出版会:267-271 1999

     先端医療シリーズ・歯科医学1 歯科インプラント 培養粘膜によるインプラント周囲の

軟組織処理 先端医療技術研究所:265-270 2000

     培養皮膚 組織移植−採取・保存・使用技術マニュアル− :39-46 2001

     再生医療の現状と実用化に向けた課題 医療ナノテクノロジー 杏林図書 :195-212 2007

 等


講演概要

 

ヒトの生きた細胞を使った医療を本当に意味のあるものにする事業

 

『再生医療』という何か魅惑的な響きに、たくさんの研究者が奮闘している。

まるで中世の錬金術がごとく、何かすごいことがそこに待っているかのように。

 

生きたヒトの細胞を培養して移植組織を作ることが、どれほどの意味を持つか。

それがどのように社会に貢献するのか。

本来ならばそういった検証が絶対に必要である。

 

しかし、自らの研究を意味づけたい研究者らは、細胞を使った医療というスキームに誘惑される。

ES細胞やiPS細胞の発見は、まさにそんな魅惑の頂点なのだろう。世界中ですさまじいばかりのお金を

使った研究が始まっている。

 

世界的に見て、培養細胞を使った医療の成功例がそれほど多いわけではない。

特にそれがビジネスとなると、皮膚と軟骨くらいが一定の実績を持つ程度であろう。

わが国ではさらに難しい状況にある。

 

われわれは、昨年10月に培養表皮の製造販売承認を受け、これを全身熱傷の治療に使える製品として

供給する許可を国から得た。しかし、これは本邦初のものである。

事業を始めてから9年の期間を要し、ようやくこれを実現した。

 

ヒトの生きた細胞を使った医療を本当に意味のあるものにする事業。

今回、これがわたしの最もお話ししたいテーマである。

それには、どのような科学的な研究が必要になるかという理系研究者ならではの作業も必要であろう。

また、それを社会に根付かせるための仕組みをつくることもきわめて重要である。

 

細胞がどのように分化するか、どのような生分解性材料がすばらしいのか。無論それもおもしろい。

しかし、これらが本当に社会貢献する仕組みづくりを誰がどのように実現するか。

現実的なその戦略をわたしは見たことがない。

 

昨今、わが国の理系研究者らが活動の場所を失いかけている。

アジアでも、中国やインドなどの国々に研究の主役が移りつつある。

その一方で、やはりわが国は“ものづくり”に長けた技術立国である。

われわれがこういった知性や技術でリードできないはずがない。

世界に先駆けて、細胞を使った医療のスキームを構築できないはずがない。

わたしはそうして自らを鼓舞し続けている。

 

今回は、わたしが経験してきた再生医療の臨床現場や、製造販売の承認を得るプロセス、

それにまつわる企業経営など、考えるネタを提供したい。

そして、いろいろな領域の研究を経験している情熱をもった若者が集まっている。

 

一緒に考えよう。とても楽しみにしている。